シティーハンター感想・掠奪してきたひとりの花嫁
シティーハンター原作版の感想です。少々辛口のところもあるかもしれません……。
エピソード16・掠奪してきたひとりの花嫁(第80〜85話・JC9〜10巻)
殺人蜂の解毒剤の副作用によって獠はもっこり出来なくなってしまい、最大の危機に!?(シティーハンタージャンプより引用)
久々に獠に惚れる依頼人の登場です。
殺人バチとか大企業とか花嫁衣装とか非現実的でとっちらかった感じも受けますが、これをさらりと読ませるのが北条先生のすごいところ。確かな画力と冴羽獠の魅力がないと、出来ないところです。あんなに簡単に解毒薬が作れるのって、マンガならではなんだけど、そこに何とも思うことなく読めるところが、「シティーハンター」の魅力なんだよねぇ。
ギャグは下ネタが目立ってますが、「レディーハンター」ネタは多分北条先生のお気に入りなんでしょうね。3回くらい出てきたし。っていうかあれが出来ないからオカマになるとか、どういう思考回路だよ(笑)さらに香ちゃんの性転換ネタも出てきて、ほんとにこのネタ気に入ってるんだなぁと思いました。いつも思うけど、「男にしか見えない」けど「すごい美人」って、意外と相反する条件じゃないですか?少なくとも私には想像出来ないです。あと喜多川親子のことを「変態親子」と獠が言ってるところが笑えますね。というかインタビューを読んでいると北条先生の「もっこり」に対するスタンスが分かるんですけどね、それがちらちらと滲み出ているのが面白いですね。
この回は香ちゃんの世話女房っぷりもガンガンに出てきて楽しいです。ハンマーでぶっ飛ばしたり、物置に閉じ込めたと思ったら様子を見に行ったり、かずえさんの面倒を見たり、かずえさんに振られた獠を見守っていたり、香ちゃんの明るい魅力が前面に押し出されています。やっぱり香ちゃんは世話焼きの明るいキャラの方が読んでいて楽しいですね。冴羽獠が「永遠の少年」だからかな。
かずえさんは、意外とイケメンな獠の場面に立ちあうことが多いので、まぁ惚れても仕方ないかなって感じです。というか獠が罪作りだなぁと思うのは、その気にさせるような事を言っておいて、最後にひどい態度を見せる事ですね。わたしは読んでいてそれが非常に引っかかるんですけど……。なんかキャラクターの心情を思うと後味悪いし、嫌な奴になる獠は見たくないんです。だからこの回のかずえさんを振るその振り方も、あんまり好きじゃないんです。
この回は教授のフォローが入りましたけどね。
シティーハンター感想・思い出の渚
シティーハンター原作版の感想です。少々辛口のところもあるかもしれません。
エピソード15・思い出の渚(第74〜79話・JC9巻)
映画の女優オーディションの護衛で、冴えない表情を見せる少女を気にかけた獠は……。(シティーハンタージャンプより引用)
この回はすごく獠の良さが出た回だと思います。
何がいいって、公開オーディションの護衛の仕事なんですが、20人の女優の護衛をするのに、賄い夫を(香に押し付けられたとは言え)やるのがいい。
冴羽獠のかっこよさのひとつに、ギャップがあると思うのですが、何がいいって、普段は香に敷かれていて色々やっているのに、危機になったらカッコよく決めるところです。
今回の賄い夫も、まず香の言うことを聞いて、そして指示通り賄い夫をやっているのですよね? 冴羽獠が女性に優しいと思うのがここですよ。香を何だかんだ言って立てているのがいいです。断ることだって出来るのに。
あとさりげなく描いてますが、女優たちが危険を感じて帰ろうとする時獠が引き止めにかかりますが、これが失敗し、香の作戦が成功するのがすごいバランス感覚だなと。これで獠が成功していたらあまり面白くないし、女性にも受けなかったと思います。これをギャグで持ってくるのが、北条先生の優れたバランス感覚だと思います。
ヒロインの悦子ちゃんは素朴な感じが魅力的。獠に父親を重ねて見ているあたりが、ひと夏の恋を感じさせなくていいです。シティーハンターって、獠とヒロインが本気で恋をしたらまた難しくなると思うんですよね。香がいるからっていうのが大きいですが、いなくても、ヒロインに恋をしては別れだったら007みたいな感じになり、ここまでの人気はなかったのでは……(昔の浅見光彦みたいに常に振られるって方がまだ人気が出ると思います)。
柴田監督と悦子ちゃんの別れは、やっぱりハッピーエンドの方がよいかな。でもこの話は最後の最後に、香が獠を誘うというくだりが出てきます。これに驚きですよ。
「そんな憎まれ口たたいているとなぐさめてやんないぞ!! 今夜はふたりっきりなんだぜ……」
とか、香ちゃんが言ってるんですよ!あの香ちゃんが!
これって、獠が自分のことを女性として見ていると、本人が自覚していると出てこない台詞ですよね〜。シティーハンター二人の微妙な関係(しかしそこがおしゃれ)は、この辺りから出てきたってことですね。
シティーハンター感想・天使のほほえみ
シティーハンター原作版の感想です。少々辛口のところがあるかもしれません……。
エピソード14・天使のほほえみ(第68〜73話・JC8/9巻)
名門家の娘・由貴は、バイト先で客たちの天使に。だが彼女の父は獠に護衛を依頼して!?(シティーハンタージャンプより引用)
この回はお気に入りです。
なんといってもヒロイン・皆川由貴がいい。北条先生の絵もすごく可愛いし、天然純粋培養お嬢様というのがギャグにもシリアスにもなれていいです。というか、こんな子がバイトに来たら店長だって毎日癒されると思うよ。一ヶ月だけでなくずっといてくれと思うこと間違いなしです。
バイト先のハンバーガーショップが暴力団の抗争に巻き込まれて、店がぼろぼろになり、由貴も獠に助けられて、父親にバイトを辞めろと言われるんですが、その時のセリフがいい。
「どんな仕事でもいやな面はあります
こんなことで仕事をやめるようでは どんな 仕事をしても不満が湧いて 長つづきしないと思います!!」
これをシリアスに言ってギャグになるキャラクターというのが好みなんです(あとで出てくる美樹ちゃんにもそういうところがありますね)。
由貴の父親もいいです。冴子の父親とキャラはかぶってるんですが、依頼主から最後のオチまで活躍するし、「娘を溺愛する父親」というキャラも立っています。
話は由貴の初恋がテーマになっていますが、それで「愛ってなんだろう」と読者にもちょっと思わせるところがにくいですね。由貴が獠への気持ちを「両親よりももう少し大きな好き」だといいながら、最後にプレゼントする相手が父親だとか、香ちゃんがヤキモチ焼きながら由貴の獠への気持ちを指摘したりとか。
異性への気持ちが両親への気持ちより「もう少し大きい」というのは、なんか香ちゃんの獠への接し方でも表現されていると思います。由貴に恋愛をコーチするのが獠が最適とか考えるところはまさに母親。でも獠が由貴ちゃんにヤキモチ焼かせるために他の女性といちゃついて香ちゃんが真っ先にヤキモチ焼くところは女性らしいです。というか、この回のふたりのやり取りはテンポも良く明るくて楽しかったな。「由貴さんに大事な男っていわれて舞いあがりやがって!!」と言ったあとの香ちゃんの表情と獠の表情は、どちらも微妙な感情が出ていていいです。
余談ですが暴力団の抗争とかほんと時代を感じるネタだと思いました。暴力団の力が弱くなった今では考えられません。でも楽しく読めるのがシティーハンターが時代を超えたヒーロー漫画ということなんだと思います。
シティーハンター感想・空とぶオシリ!
シティーハンター原作版の感想です。少々辛口のところもあるかもしれません。
エピソード13・空とぶオシリ!(第62〜67話、JC7〜8巻)
獠は女子高生怪盗・かすみから、盗まれた黒いチューリップの球根入手の協力を請われる。(シティーハンタージャンプより引用)
ギャグに振り切った回です。
キャッツアイのセルフパロディみたいなかすみというゲストヒロインも出てきますが、このヒロインとのやり取りより、敵(これがまた不律乱寓というギャグの名前)にどう接近するか、どう潜入するかが描かれますが、それがほんとにギャグ一辺倒です。
かすみとのやり取りは、出会いの場面が一番目立つくらいで、依頼内容を話す場面も、獠がお茶をかすみの服にこぼして着替えさせるあたりから、「あたしよりスタイルがいい」と傷ついた香と「色気で高校生に負けてやんの」というやり取りに食われていますし、乱寓に接近するためにかすみに偽の超能力を発揮させようというあたりは獠の狙撃の腕、潜入してからは獠と香のやりとりがメインになっていて、かすみの影がどうも薄いと思います。
この、かすみの影の薄さがかすみの再登場に繋がったのではないでしょうか。
最後の、かすみの依頼人にチューリップを渡す場面、依頼されたチューリップが開いてしまい、依頼人が作ろうとした黒いチューリップは作れなかったことがわかり、それを依頼人に報告する場面ですが、目が見えないという依頼人に、かすみは「チューリップは黒い」と嘘をつきます。けれども依頼人は目が見えないという嘘をついていたのではないか? というオチになっていますが、お互いがお互いを思い嘘をつくという、切ないいたわりを見せるいい場面になっています。バッドエンドの落とし方としては良質でいい読後感です。でもハッピーエンドの方がやっぱりいいなー。話のまとめ方って難しいですね。
獠がまだ女子高生好きだった頃の話ですが、香ちゃんがオカンになりかかっているのもこの話から。ジョギングへ行くという獠に「そろそろ女子高生の下校時間だものね!!」とスケベ心に対してツッコミ。そして面白かったのが乱寓邸に潜入した獠が香に「おれを挑発しろ!! 」ともっこりさせろという場面。シティーハンター初期ならではですね。っていうかこの前の話で獠は香にもっこりしないのはわざと、とあったはずですが、これは無意識下で相当自制してるということなんでしょうか。
あと香ちゃんに惚れるキャラクターが出てきますが、これもギャグキャラで香ちゃんに惚れたキャラがいること自体もギャグになってます。なんだか長閑ですね。
シティーハンター感想・危険な国から来た女!
シティーハンター原作版の感想です。少々辛口のところもあるかもしれません。
エピソード12・危険な国から来た女!(JC7巻・第56話〜61話)
母国の内乱から流れてきた少年とその女家庭教師。互いを守ろうとする二人の姿に、獠は!?
(シティーハンタージャンプより引用)
読んで思ったんですが、ヒロインは温子先生だけど、実質的ヒロインは香ちゃんですね。
まぁ、シティーハンターはだいたいそうだし、そうでないと読んでいてもイマイチ乗れないんですけどね。
冒頭、依頼についてのやり取りですが、何気に前の話をひきずっているやり取りがあるのが北条先生の律儀さかなと思います。
(獠の「渚との結婚騒ぎで おれに女の依頼は回さないつもりだな!?」という台詞と、「またすぐやきもち焼いて」という台詞)
しかし、「またすぐやきもちやいて おれは結婚の相手はきみしかいないと思ってるよ」って後半考えるとすごい台詞ですねー。っていうかこんなこと軽いノリで言ってたのが信じられない。初期の獠は軽すぎて、後半から考えると別人ですね。何度も思うけど。
この二人の変化というか成長っぷりを楽しめるのがシティーハンターなんですよねー。
今回獠のアクション的な見所はそんなにありません。序盤のアクション、獠が依頼人に会う時に遭遇するアクションは温子先生の気の強さ、芯の強さが見せ場と思うし、色々あっての終盤、エマリアの追っ手を追い払うアクションは、香ちゃんの銃の腕と拓也くんの銃が見所だと思うのです。アクション場面を獠のチート描写だけでなく、人間描写に絡めているのが素晴らしいと思います。
この話の温子先生はシティーハンターでは珍しいキャラクターです。金目的で拓也くんの家庭教師になったけど、拓也くんの真摯さに打たれて真剣に守ろうとする……すれていた過去を持つ人間がヒロインというのが、非常に珍しいと思います(読解不足かしら)。
拓也くんが獠の真似をし、銃の練習からスケベの真似まで色々してみるが敵わないと悟る、というくだりも非常に興味深いです。こうして考えると獠は男の理想ってことなんでしょうね。しかしハードボイルドな獠はジャンプ誌上であまり支持されず、スケベなもっこり獠になって人気が上がるのが不思議なところです。やっぱり人間ギャップがある方が楽しめるのかなー。
しかしこの回の注目すべき点は、なんといっても香ちゃんとの絡みです。この後もずーーっと続く「香にもっこりしない理由」が拓也によって語られ、さらに口説こうとするエピソードまで追加。ここでくっついてたらシティーハンターはどうなってたんでしょうね。獠が布団で簀巻きにされるのもこの回が多分最初。香ちゃんの一番の見せ場は終盤です。温子先生を獠が口説いたのを立ち聞きし、謝る拓也に香ちゃんはこう言います。
「な なーに あたしが獠を死なせやしないよ」
なにこのいい女って感じです。
っていうか香ちゃんのポジションってすごいですよね。「死なせやしないよ」っていうのは獠を守る、そのために戦うって意思表示ですからね……。
「男にとって女は二種類、一緒に戦う女と守ってやる女」というのをどこかで聞いたけど、この時点ではそれぞれ香ちゃんとヒロインに振られていると思います。やがてそれを香ちゃんひとりでやるようになるんですけど、そうなるとゲストヒロインの影がますます薄くなるんですよね……。
香ちゃんが女性に受けが良いのも非常によく分かります。このエピソードひとつ取っても、(「好きな男の為に戦う女」っていう話ですが)かっこよさと健気さが同居しています。ましてやヒーローの隣に同格としているわけなので(ハンマーによる制裁は、その瞬間獠よりも立場が上だと読者には思えます)女性が感情移入しやすいと思うんですよね。
シティーハンター感想・アイドルは走る!
シティーハンター原作版の感想です。少々辛口のところもあるかもしれません。
エピソード11・アイドルは走る!(第50〜55話・JC6〜7巻)
アイドル・渚をストーカーから守る仕事についた獠だったが、渚が獠に惚れてしまい⁉︎(シティーハンタージャンプより引用)
初の香ちゃんを交えたラブコメ回です。
この回のラブコメの不思議なところは、獠が串田さん(渚のマネージャー)に手を出そうとする→渚がやきもちを焼く→串田さんが相手にしなくなり渚が本気になる→香ちゃんがやきもちを焼く、というようにヒロインがちょっとずつ変化していくところだと思います。
結局香ちゃんを最終的なヒロインにした方がいいということになったんでしょうか。香ちゃんがやきもちを焼くのが、シティーハンター定番のギャグになるんですが、始めて出たのもこの回です。
さやか回から「ヒロイン=香」の伏線はありましたが、はっきり香ちゃんの獠への気持ちが書かれているのもこの回だと思います。
それにしても北条先生は普通のギャグよりラブコメの方が楽しく描けるんではないでしょうか。獠の相手もマネージャーの串田さんから親衛隊の子までころころ変わってるし。
アイドルとストーカーの問題は今でも変わらないので、普遍的なテーマで読みやすいと思います。アイドル自身が持つ吸引力は、アイドルブームだったこの時代の方が大きかったなと思いますが(結婚して絶頂期で引退とか、山口百恵かな?)。
一度、「香は獠のどこが良かったのか」「獠は香の何が好きなのか」シティーハンターで読んでみたかったように思いますが、こんな感じでなんとなくカップルになっているのも、想像の余地を残していていいかと思います。この話では香ちゃんがやきもちを焼くようになり、ツッコミに回り、世話焼き(なんと獠の火傷を冷やす場面にも立ち会っています)もするようになっているので、香ちゃんのキャラが大体固まったんじゃないかと思います。
あとは、渚がストーカーを撃退するのがいいですね。この回の獠のアクションより、渚のアクションの方がコマが大きいという(笑)。
シティーハンター感想・ギャンブルクイーン!
シティーハンター原作版の感想です。少々辛口のところもあるかもしれません。
エピソード10・ギャンブルクイーン!(第44〜49話・JC5〜6巻)
トランプの目を読む力を持ち、悪党共に食い物にされている女ディーラーを、獠が救う!
牧野陽子回です。
特殊能力を持っているヒロイン初登場ですが、この回は香ちゃんが一度も出てきません。
そのせいか、ギャグをやっていても何となくシリアスな感じが漂っている感じがあります。
これも試行錯誤回だったのでしょうが、やはりコンビで出した方がいいという話になったのでしょう。
ヒロインの牧野陽子は、自由になるためにヤクザから抜けようとしますが、それは恋のためというのが面白いです。シティーハンターのヒロイン達は、恋で自由から遠くなることが多いと思っているのですが(獠に恋して振られることで自由を手に入れるのですが)、いま所属しているところから抜け出す為には、恋をするという大きなエネルギーが必要になるのでしょう。
それにしても陽子もまたチート能力の持ち主で、獠の物語のヒロインには、それくらいの能力でないも釣り合わないのでしょう。いかに獠がチート設定であるかわかります。
前回の冴子回といい、今回の陽子回といい、ヒロインの描写が多く、獠の出番を食っている感じさえあります。今回の陽子回の最後の恋の結末は、獠の見せ場を作る為にあったような感じさえあります。それにしても陽子に可哀想なオチでしたが……。
高円会(敵のヤクザ)が陽子と獠を引き離すために女性を使うところで、こんなくだりがあります。
(陽子)「だったら、女を 気にしなければ いいじゃない!」
(獠)「だめ……頭で わかってても 下半身が勝手に 動いちまうの ボク……」
ここで獠の恋愛が「本能に逆らえない行きずりの恋愛」だと明記されます。シティーハンターは結構序盤のさらっと描いてある設定も後々まで出てくるのですが(しかも割とこっそり)、この設定は話の根幹部分に関わってきます。獠を語る上で外せない設定なのでしょう。
ほかに、この回と冴子回はトランスジェンダーネタを使っていますが(獠の女装まである)、これをコメディのネタとして使っているのが興味深いです。男性にマッチョイズムが強く求められていたからこれがコメディのネタとして使えたんですかねぇ。