シティーハンター感想・香ちゃん狙撃さる!?
シティーハンター原作版の感想です。少々辛口のところがあるかもしれません……。
エピソード23・香ちゃん狙撃さる⁉︎(第117〜121話・JC14巻)
銀狐が獠へのリベンジを目論み、香に危機が!? 香を思うが故に決別を理解する獠だが……。(シティーハンタージャンプより引用)
ファンが待ちに待った展開の回です。
読んだときは「来たーーっ!」と思って正直わくわくしながら読みました(笑)
最終回まで読んでから読み直すと、感慨深いものがありますね。
特に銀狐のターゲットになった香ちゃんに、獠が銃を渡して「自分の身は自分で守れ」と言うところが(苦笑)。
北条先生の中でも、獠と香ちゃんの関係性はこの頃まだ模索中だったのでしょう。
もちろん妄想設定はいくらでも出来ます。この頃は香ちゃん本人にも本命と思って欲しくないから、嘘をついたとか。獠は優しい嘘がうまいから。
コメディからシリアスの振り幅がめちゃ激しい!と思ったのは「つまりほんとの恋人になるか?」です。いきなり香ちゃんの持っていたハンマーがなくなる!
しかし香ちゃんが「女の魅力」を「獠をもっこりさせられるかどうか」と思うところは、ほんとに切ないですね。
この辺りは30年たった今でも変わらない価値観のような気がします。獠がこのあと何度かもっこりしますが、これは香ちゃんの心に惹かれているので、体の色っぽいところに反応していると思いたいです。
そして、獠が香に別れを告げる場面、香ちゃんの
「そんなにあたしを守るのがいやなわけ!? そんなに足手まといなわけ!?」
のセリフ、大好きです。
いつも心の底から信頼している獠に言われた絶望的な感じがすごく出ていますよね。
そのあとの「……そう」もヒステリックな感じじゃないのが、言葉もないという感じでいいです。
原作では教授が出てきますが、アニメでは冴子になっています。どちらも獠の本音を聞くにふさわしい相手です。
この本音がまたしびれるんだなぁ……。こう、自分でも気がつかない本心を、冷静に分析して気がつくみたいな状況、どきどきしますね。
その後の香ちゃんの活躍も楽しい。この時の状況、後々の話にたくさん出てきますね。香ちゃんは外す名人というのが(笑)。
基本的には香ちゃんファンにはとても楽しい回です。香ちゃんファンじゃない人のサービスとして、かずえさんが出てきたのかもしれませんが。
しかし30年たった今、シティーハンター人気は男女問わずあり、その女性人気を上げたのは間違いなくこの香ちゃんとの信頼と愛情のエピソードであることは間違いないです。
なぜこんなに香ちゃんとのエピソードが女性受けがいいかというと、やはりそれは香ちゃんのビジュアルが男性に媚びていない(読者の期待する北条美人ではない)からだと思うんです。
絵柄の影響は大きいと思います。
また、獠とバディを組んでおり、愛情よりも先に信頼関係を描写していったことも大きいのでは。
その時の性格描写で、スーパーマンである獠に対等に渡り合おうとするのがあったのもいいですよね。
そのあと香ちゃんがいわゆる女性の家事能力が高くなっていったのを見ると、世の中大変だなとは思いますけどね。
ただ、北条先生の凄いところは、その高い家事能力を限定的とはいえ獠にも振っているところで(逆に高い戦闘能力は冴子や美樹にも振っている)、ひょっとしてあまり性別による能力の振り分けを気にしない方なのかな、と思ったりもしますけどね。
シティーハンター感想・海坊主からの依頼
シティーハンター原作版の感想です。少々辛口のところがあるかもしれません……。
海坊主からの依頼(第111話〜第116話・JC第13巻)
海坊主が密かに支え続けてきた天才ヴァイオリニストの真希が、何者かに命を狙われ……(シティーハンタージャンプより引用)。
お久しぶりです。
ちょっとブログを書くモチベーションが落ちていたのですが、復活しました。
読んでくださる方、ありがとうございます。
さて、この話は海坊主のキャラを立てまくった回です。ゲストヒロインの真希はやや影が薄め。
海坊主が美女に弱い(獠もですが……)・トラップの名手・元傭兵・本名・猫嫌いという設定だけでなく、北条先生の得意な「馬鹿がつくほど真面目な人間が真面目過ぎてギャグになる」という展開も多数用意してあります。
特に獠のアパートに掛けたトラップのくだり(とそのオチ)と、海坊主が変装して獠と真希のデートを追うくだりは出色です。
トラップのくだりは小学生男子だったら大笑いしたでしょうし、変装も楽しい。コメディからシリアスに移行する、その振り幅も素晴らしいです。
最後も北条先生の得意な感動的な展開で、まさに職人技の回。
というか、何度も思いますけど、20代後半に描かれたんですよね、この漫画。毎回のエピソードの完成度の高さに驚かされます。
ただ、この後が「香ちゃん狙撃さる!!」ということを考えると、連載3年目に入り、パターンを脱したいというのがあったのかもしれません。
何気に獠の過去にもちらりと触れてあるのがこの回のポイントです。
海坊主の設定が日本人の傭兵とのことですが、傭兵といえば中世ヨーロッパのイメージが強いですね。後々、海坊主の参加していた戦争は南米の内戦ということがわかるのですが、ちょっと調べてみたところフランスに外人部隊というのがあるので、モデルはそういったところだったりして……。あとはアフリカ諸国の独立に伴う外人部隊というのが多かったようです。
香ちゃんは今回は完全にアシスタントのような形ですが、おかげて海坊主のキャラが立ったと同時に、「香ちゃんは海坊主を信頼している」ということが成立したので、何気に重要な回だと思います。
それにしてもラストシーン、登場人物の全てが良すぎる……! 獠の気遣いがかっこいい! 現実には、こうして気遣いしても気がつかれない場合が非常に多いのでしょうから、真希ちゃんが海坊主にばらしたのもいい展開ですね。
シティーハンター感想・出逢って恋して占って
シティーハンター原作版の感想です。少々辛口のところがあるかもしれません……。
エピソード20・出逢って恋して占って(第105〜110話/JC12〜13巻)
美少女モデルとして売り出し中の明美が、獠のことを運命の相手だと言い出して急接近!!(シティーハンタージャンプより引用)
芸能界ネタはこれで三度目かな? ヒロイン明美は15歳なんだけど、よく読むとすごく獠に対してしたたかで、でもそれは自分の夢のためなので嫌な感じはしませんね。カメラマンになりたいという夢を叶えるために引退するにはどうすればいいか、というので獠を使ったり、その使うために占いを使ったり……。その明美が最後、「自分の人生や運命は思いどおりにならないけど 思いどおりにするよう努力するのが人生だと!!」と宣言します。とするとこの話は、自分の人生の目標を達成するために他人を使ったりあてにしていた少女が自立する、という成長物語にも読めますね。ギャグの中にこういった成長物語要素をさらりと入れてくるのはさすがです。
明美の年齢が15歳なのは、ファンに合わせたのかな? 実際は15歳の女の子が獠を見ると「おじさん!」となるとは思いますが、そういう描写が皆無だったのは、ファンの年齢の反応に合わせてでしょうか。
この話も獠のギャグ、明美の成長物語、怪人Xの正体という推理パート、そして獠のマッチョイズムではない男らしさの描写など、何層も物語が重なっていて、ものすごくボリュームがあるのにテンポよく話が進むからそれに気がつかないんですよね。この半分の要素だけでも十分な物語になると思います。贅沢な話だなあ。それで香ちゃんの活躍まで手が回りませんでしたが、ファンのツボである「獠は香の誕生日を暗記している」があったので、満足です。
銀狐を追い詰める場面はすごい迫力でした。この前の回で銀狐の非道を散々描いて、嫌な奴を印象付けたのも大きいですが、獠にカメラを持たせて「ガタガタ言わずに笑え!」とか、かっこいいな〜。
シティーハンター感想・美人キャスターの実力
シティーハンター原作版の感想です。少々辛口のところもあるかもしれません……。
エピソード19・美人キャスターの実力(第99〜104話・JC12巻)
政治家のスクープを狙うキャスター・礼子の護衛をする獠は、何かにつけ反発されて…。(シティーハンタージャンプより引用)
この回はヒロイン礼子と香ちゃん、そして獠の魅力的なエピソードがバランスよく散りばめられています。これ描かれた時って北条先生20代ですか? 30代ですか? いずれにしても神がかっていると思います。
礼子のエピソードだけでも、
1.男に負けまいとする女性キャスターで、周囲から浮いているが成長し周囲と調和するようになる。
2.獠に反発するが、徐々に惹かれるようになる。
の、2つ入っているのに、香ちゃんと獠の
1.周囲からは喧嘩ばかりと見えているが、実はお互い信頼しあっている。
が入ってさらに獠の、
1.依頼人に下心丸出しで接近するが、実は影でこっそり助けており、ある程度踏み込んだら距離を置く。
というエピソードまで入ってて破綻しないって、すごいです。
テンプレートとしてこれらが確立したのがこの頃でしょうか? ずっとパターンで行くことも出来たのに、この後時間の流れを設けていろんな違うエピソードを作っていくところが作家魂だと思います(でも、『エンジェル・ハート』はやり過ぎだったなぁー。他で触れることがあるかもしれませんが)。
美人キャスター礼子の設定は今に通じるものがありますね。顔だけで判断されたくないという……。多分美人キャスターブームの走りだったのでは。今ではそれも普通になっていますからね。
あと今読んで思うのが獠が香にパンプスを履くなといい、香が私だって女だからおしゃれをさせろというところが、面白いなあと。パンプスがお洒落の象徴で、日常的に履くものだったんですね。今でもパンプスを履く人はいますが、日常的に履くことはあまりなくないですか? 靴屋さんに行ってもパンプス自体フォーマル用がメインだし。でもパンプスが女性性の象徴であること自体はあまり変わらないと思いますけどね(perfumeを見ているとつくづく思う)。
香ちゃんと獠の信頼関係は非常に好きなのですが、よく読むと興味深いですね。
普段は喧嘩ばかりで本音を言い合わないのですが、実は信頼し合っていることをお互いが知っているという……(それは友情か愛情かのどちらかだと思いますが)。お互いが知っており、
「ホントに危ないときには助けてくれる……なんて言ったら信じる?」
と香ちゃんが言って、
「信じないよーだ」
と獠が返しても、その手は助けあげている。なんというメッセージの多いコマでしょう。読者は獠の行動を信じるから、獠の香への信頼は揺るがないと読んでいて思います。1コマの情報量の多さ、すごくないですか。そしてこの二人はどんなに喧嘩しても、その信頼関係は絶対に揺るがないとこの時点で思わせるところがすごい(だから二人の信頼関係が揺らぐ回は物語になるし、非常に読み応えがあります)。
この回はアニメもなかなか面白かったので、おすすめです。
シティーハンター 感想・ある夜のマチガイ
シティーハンター原作版の感想です。少々辛口のところもあるかもしれません……。
エピソード18・ある夜のマチガイ(第92〜98話・JC11巻)
かつて槇村が追っていた人身売買組織壊滅のため、冴子は獠&香と共に敵のアジトへ!(シティーハンタージャンプより引用)
槇村が事件に関わってくる初めての回です。そして獠の香への本心が垣間見える回です。
結構ハードな設定なのに、ボスのキャラ付けといい展開といい、かなりギャグなんですよねー。それがシティーハンターのいい所であり、特徴でもあると思います。ボスのやってることなんてかなりの犯罪なのに、憎めないどころか笑えるのは何故?
香の銃が槇村の形見で、冴子が香と槇村を重なるところは名シーンですね。
しかしこの回の見どころはなんといっても、香が攫われたと知って獠が取り乱すシーンでしょう! 読んでいるこっちもおおっと思いますよー。ただ、この回の獠は対組織になるとものすごくチートなんですけど、冴子に騙されたり、変装した香に気がつかなかったりと人間関係的にはちょっと抜けてますね。それが故意なのか過失なのか、考えるだけでも楽しいです。
あと、冴子が槇村への気持ちを告白するラストシーンもいいですね。これを読むと冴子が槇村と獠を振り回していると思うし、ずーっとそう思ってきましたが、のちのちのノベライズとかエンジェルハートの展開はなんだったんだろう……。やっぱり冴子は、「強いけど、男へ好意を持つがそれが認められないことで価値を認められる」女性からは自由であってほしいと思うのです。強い女性って、世間からもある種の男性からもなかなか認められない(そのままでいいといってもらえない)と私は思っているので、冴子はそこから自由であって欲しかったと思うのです。
香はいいんですよ、弱いけど世間が求める女性としてチートだし、女性から見て男性から頻繁に貶められるという点で共感出来るから。でも冴子は女性性を逆手に取りつつ男性を振り回すっていうのが魅力的だったのでね……。
まあでも、冴子も獠も香も魅力的に描かれているし、ハードボイルドコメディとして質は高いと思います。
シティーハンター感想・看護師には手を出すな!
シティーハンター原作版の感想です。少々辛口のところもあるかもしれません……。
エピソード17・看護師には手を出すな!(第86〜91話.JC10・11巻)
巨額の遺産相続人となり命を狙われるドジっ子看護師を守るべく、獠は病院に入院し……(シティーハンタージャンプより引用)。
序盤からすごいセクハラギャグが飛ばされていて、読み返して唖然としました。いやぁおおらかな時代だったんですね。そしてまたも「日本一の実業家」の登場です。普通の女の子が遺産相続人に指定されるとか……70年代から80年代にはこういうネタが非常に多かったんですけど、まだそういう話に夢があったのかもしれませんね。
ヒロインの岩井善美ちゃんは、ものすごくドジですが、いいなと思うのは獠に「たとえ誰かがあなたを襲ってきても わたしが絶対に守りますから!!」と言うところ。北条ヒロインの強さが出ていますね。善美ちゃんが獠に惹かれていくのもなかなか説得力があります。今までみんな敬遠するほど看護の技量がないのに、最後まで励まして看護を受けてくれたとかなると、それは惹かれない訳はないなぁ。
読んでみると派手なギャグ(善美ちゃんのドジと獠の下ネタ)と、ヒューマンドラマの話が上手く組み合わさっていて、通常のパターン回では後味の良いものになっていると思います。そうなると香ちゃんはずーっとサポートメンバーに回り、獠との絡みが少なくなりますが、なかなかどうして、看護師に変装して病院に入り込むとかのコスプレもあったりして、頑張っています。
でも一番いいのがラスト!依頼人の高塚さんが出てきますが、わたしこの人好きなんです。余命幾ばくもないのにものすごく元気だったり、しかも「元気な頃ならジャーマンスープレックスが決まっている」とか面白すぎる!この人が善美ちゃんに遺産を相続させようとした理由もよかったんですが(その時の最高のやさしさをもって接してくれた)、「そんな人生を後悔しているわけではない」と素直でないところもいいです。そしてこの場面で、善美ちゃんのキャラクターが掘り下げられるのもいいですね。「病気の人を支えられる看護師になりたい」「それは病気の兄と、それを支えてくれた看護師がいたからだ」「だからお金はいらない」とか、三段構えで語られる場面は、なかなか感動的です。北条先生のヒューマンドラマが炸裂している感じです。