シティーハンター感想・その女に手を出すな!
シティーハンター原作版の感想です。少々辛口のところもあるかもしれません。
エピソード9・その女に手を出すな!(第36話〜43話・JC5巻)
獠と旧知の仲の刑事・冴子が、ロキシア王国の軍事機密を奪取する仕事を持ちかけてくる。(シティーハンタージャンプより引用)
野上冴子初登場回です。
ワン・オブ・サウザンドとか、獠の歯に仕込ませた睡眠薬初登場とか、魅力的なところはいくつもあるのですが、この回はなんといっても冴子に尽きると思います。
冴子は「もっこり報酬を種に獠に仕事をさせる」女性ですが、同時に「美人刑事」であり、「強い」「誇り高い」女性です。
これはどういうことでしょうか。
冴子は、男性の本能を手玉に取り、男性に自分の都合のよい様働かせる女性として描かれています。自分の美しさを利用し、女性が本来警戒するものを上手くかわして、手のひらに転がしているのです。これが男性に媚びる女性なら多分男性からも女性からも嫌われます。冴子はそうではありません。むしろ媚びない、誇り高い、そして強く、国家権力に属してさえいます。だから冴子は男性を手玉にとっても痛快でさえあります。
普通の女性はこうは生きることは出来ません。男を手玉に取ろうとすると、その庇護に入り利用しようとするのではないでしょうか(宮部みゆきの『火車』はそういう女性の話でした)。
冴子は、自主性を持って、男性社会の中で男性からも自由に生きている女性だと思います。だから獠を使っても、嫌味どころかむしろ信頼関係があるように見えます。しかしそうあるには、どれほどのものがないといけないのでしょうか。「強く、美しく、誇り高く、賢く、したたかで、でも可愛いところもある」とか、普通の女性にはとてもとても……。
この回の冴子の見せ場は多くありますが、エラン・ダヤンに捕まって服を脱がされる所が個人的には一番好きですね。
冴子はこの回が一番自由にいられたとは思います。この回以降、出てくるたびに冴子の個人的な話、特に恋愛に触れるので、冴子も「普通の女性」にどんどん近づいていったのではないかと……。
恋愛といえば、冴子も高スペックなのですが、獠が本気で惚れる女性もハイパースペックなので、すごいマンガだなと思います。それでも読んで楽しめるのは、北条先生の画力がリアリティを支えているのでしょう(まず冴羽獠のかっこよさに説得力がないと無理ですよね)。
あとこの回は獠が敵を殺していますが、多くの美女を騙して反乱の手先にしているのが許せなかったのかなー。獠は優しいから……。
シティーハンター感想・とんだティーチャー
シティーハンター原作版の感想です。少々辛口のところもあるかもしれません。
エピソード8・とんだティーチャー(第29〜35話)
ライバル会社に命を狙われている大企業の令嬢は、護衛についた獠を白馬の騎士に重ね……。
(シティーハンタージャンプより引用)
獠が心を閉ざした美女のボディーガードをしながら、その美女の心も開いていく……という構成は、前回の佐藤由美子回と同じです。違うのは、獠が恋愛モードに入っていないこと。この回のヒロインの片岡優子には、佐藤由美子よりもより強く「こう生きるべき」という指標を示します。それは「自分の環境から逃げるな」ということ。初めは反発する優子ですが、獠に助けられてから心を開くのがいいです。
この時の獠のセリフもかっこいい。
「おれは そのために来た!」とか、期間限定ヒーローだと宣言していてしびれます(ヒーローたる所以のアクションもなかなかかっこいい)。
北条先生のテーマのひとつである「血のつながりのない親子」が出てきたり、獠のピンホールショットが出てきたり、いろいろ面白いこの回ですが、面白いのが香ちゃんまで血のつながりのない獠の家族になっていたこと(しかも弟)。
犯人が大物だったところもいいですが、捻ってて好きなのは義理の母親を脅迫していた写真のトリックです。盗まれた死体を悪用してひき逃げ事件を作り出し、その写真をネタに脅迫するとか小技が効いてて好きですね。
教授と香ちゃんのハンマーが初めて登場します。この回は獠の過去もちらほら出てきますが、それがまたかえって獠のミステリアスな感じを強調しています。
この頃の獠は(コメディに走ってても)ちょっと謎めいた感じがありました。獠と香の関係も、何もわからない素人の香ちゃんを獠がフォローするという感じでした。よく考えたらこの関係は、強弱こそあれ最終回までずっと変わらないのですが、獠の変化もさることながら香ちゃんの変化の方がハンパないので最終回付近はそれがちょっとわかりにくいんですよねー(というか、獠が香ちゃんをとても好きな描写が強く出てくるので、それも分かりにくくなっている要因の一つだと思います)。
この回の香ちゃんは割と読者の代弁者みたいな感じが出てて、こういう役回りも良かったです。あまり香ちゃん自身に踏み込まない香ちゃんの出番って、意外と少ない気がします。
シティーハンター感想・裸足の女優
シティーハンター原作版の感想です。少々辛口のところもあるかもしれません。
エピソード7・裸足の女優(第22〜28話・JC3〜4巻)
獠が護衛を依頼された映画女優は、自ら死を望み、海坊主という殺し屋を雇っていた……!!
(シティーハンタージャンプより引用)
海坊主初登場の回です。
ヒロインの佐藤由美子は映画女優。そして海坊主に自分の殺人を依頼しているということで、劇中映画とリンクして話が進んでいきます。
恋人をなくして生きる気力を失っている人間、という人物はこの後も登場しますが、北条先生の好きなモチーフなんでしょうか。
色々な落とし方がありますが、この話ではかつての恋人をヒロインの死への願望に見立てて、「打て!」と獠がヒロイン自身で追い払うように諭しています。
というか、由美子が獠にかなり本気になっているように見えますが、この後どう別れたの? と心配になります。007のボンドガールのようなイメージで描いたのかしら。
海坊主と獠のやり取りはかっこいいですね。朝食で買収されるのも良いです。
アクションで好きなのは焼け落ちる別荘から由美子を助け出すためにナイフを投げるところ。ナイフのアクションがいいですね。あと、アクションしている時も基本的に陽気な空気が漂っているのもいいです。最後もオチがついてたし(笑)
シティーハンター 感想・待ちつづける少女
シティーハンター原作版の感想です。少々辛口のところもあるかもしれません。
エピソード6・待ちつづける少女(19〜21話、JC3巻)
政治家の罪を被り別人として生きる男に、人生をやり直させるため獠が立てた計画とは⁉︎(シティーハンタージャンプより引用)
これは好きな話です。
獠が殺しの仕事を受ける——それには条件がある、その条件とは? というのがテーマのひとつですが、それをゲストヒロインのさやかに質問させる、という切り出し方がいい。
そして、依頼主に会う場面で、娘の道子を出すのがものすごくいいです。道子の孤独、依頼主萩尾の孤独、苦悩、獠のやさしさが滲み出た名場面だと思います。
獠の特技ピンホールショットが出るのも読者を圧倒させるし、何より面白かったのは萩尾を救う方法です。
本気で撃って、死体隠滅に見せかけて香ちゃん達に救わせる……という凝った方法が読んでいて興奮します。
これが途中で上手くいかなくなり(お約束といえばお約束)、獠が「香……」と考えるのもいいですが、香ちゃん達が上手くこなして、さやかが怒った後の香ちゃんのセリフがいいですね。
「…ちがうわ……
獠は車が動いた時全てを悟ったのよ
あたしたちが萩尾さんを救出できる…と信じていたのよ!!」
この台詞、読者だけでなく作者も香ちゃんにぐっときたんじゃないかと思うのですがどうでしょうか……。
ここまで読むと「冴羽獠が殺しの仕事を受ける条件」がなんなのか、自然と読者にも伝わります。読後感も良いです。
さやかと香の冒頭の場面は以後の定番ギャグにも出てくる「香が男と間違えられる」というものです。
この回のやり取りで思うのが、女性キャラのやり過ぎ・言い過ぎを獠がたしなめるというのが多いんですね。香ちゃんも妹キャラみたいな感じ。
香ちゃんがオカンキャラクターになるのはいつくらいなんだろう……。
笑ったのが獠が手品をする場面です。確かここ一回だけだったのが残念。中盤以降は獠のギャグは「もっこり」が主流になるので、なかなかこういうギャグは見られないんですよねー。
アニメ版ではさやかの役割がすべて香ちゃんに当てられていましたが、それも良かったです。ただ、出番の少ない原作でも十分香ちゃんは良い役所だったと思います。
シティーハンター感想・悪党にはなにもやるな!
シティーハンター原作版の感想です。多少辛口のところもあるかもしれません。
エピソード5・悪党にはなにもやるな!(14〜18話、JC2・3巻)
ヤクザの娘・さやかの護衛を引き受けるはめになった獠は、家庭教師として娘に接近し…。
(シティーハンタージャンプより引用)
面白い小ネタがいくつもある回です。香ちゃんの足の間から射撃したり、ヤクザからネコババした一億円を一週間で獠が使ったり。
けれどもこの回でシリーズの定番となったネタも多く登場しています。
ヤクザや暴走族がコメディリリーフとして描かれている、依頼は美女のボディーガード、ボディーガードされた美女は獠に惚れる、と言った点です。
読み直して何が驚いたって、ヒロインのさやかが獠にとって香は「弱点」「恋人」と言っていること。
こんな序盤からラブコメ要素が入ってたんだ!と思いました。序盤でこれなら、終盤の展開が獠と香の関係の決着になるのは必然かな。
バディものだとバディの関係性が特別なものになるのはある意味お約束で、そういうわけで獠と香に特にそんな描写もないのに恋人扱いになるのもお約束であれば、読者がなんの違和感も持たないのもまたお約束な感じです。
これがガチの恋愛ものだったら、「きっかけ」とか「段階」とかが心理描写も交えてクローズアップされるとは思うのですが……。
ただ、シティーハンターはヒーロー物であるので、そこがあんまり描かれないのが逆に読者に想像の余地を残していていいと思います。
ヒロインのさやかはスケバンの頭でじゃじゃ馬と呼ばれていますが、途中「父親に構って欲しい」というくだりがあります(もちろんギャグのオチがついている)。これは本当なんじゃないのかと思うのは、獠も含めた父親から派遣された家庭教師を無視ではなく追い払ったりする点。構って欲しくなければ、邪険にしないのでは。
獠を好きになるのも、きっと父親とか兄を慕う感じなんだろうな。きっかけとしては獠の腕っ節の強さと助けてもらったことなんだろうし。
それにしても、事件解決のためにさらわれるよう仕向けたって分かったら、怒らないのかな(シティーハンターはヒーロー物だからそういうことはないのかな……)。
しかし香ちゃんの出番が少ないのは寂しいですね。この話の始めの方で、竜神会の会長にポンポン言い返す香ちゃんは実に魅力的です。獠も何も言えないのが更に良かった。なんというか、子供扱いというか、初心者扱いというか、じゃじゃ馬娘扱いしてる感じですよね。
シティーハンター感想・恐怖のエンジェルダスト
シティーハンター原作版の感想です。少々辛口のところもあるかもしれません。
エピソード4・恐怖のエンジェルダスト
恐るべき麻薬組織の協力要請を拒んだ槇村が、殺害された。獠は兄の死を妹の香に告げ……。
(シティーハンタージャンプより引用)
この話の最も印象的な場面は槇村の死でしょう。シリーズが続いて獠と香の個人的な話にスポットが当たれば当たるほど、獠の親友であり香の兄である槇村は無視できない存在になっていくのは当然だと思います。シャーロック・ホームズで兄のマイクロフトが登場回数が増えたようなものです。槇村は設定も退場の仕方も影があるので、それがシティーハンターという物語に深みを与えていると思います。
北条先生の大きなテーマの「血縁関係のない家族」がここで登場していますが、それもシティーハンターにプラスの効果が出ていると思います。
この話の冴羽獠には陽気な暗さがあります。ディーラー殺し、上納金強奪はそのピークでしょう。笑いながらディーラーを毒殺するところはほんとに良かったです。シティーハンターが界隈で恐れられているのは、技量だけではなくその冷酷さ、残酷さではないかと思わされます。香ちゃんの扱いも容赦がありません。「女とは思わない」って書いてありますけど、出会いの時と同じく将来獠自身が後悔するんじゃないかってくらいの仕事を振っています。そのくせ「かーわいい」とか添い寝してやろうかとかちょっとしたやさしさをちらちら見せるんですよね(このやさしさも後々変わっていくんですが)。
この陽気な暗さ、冷静さは、今思えば時代性だった気もします。執筆のリアルタイム時はバブル絶頂期でしたが、東西冷戦下で核実験も今の比ではなく、ノストラダムスの大預言が大流行し、世紀末の暗さが世間をおおっていました。第三次世界大戦、などという言葉も飛び交っていました。この話の冴羽獠は、まさにその時代を感じさせるヒーローだったのではないでしょうか。
余談ですが、香が登場時時間にルーズだったこと、獠がユニオンに乗り込んだ時着ていたのが槇村のコートだったことに今更気がつきました。北条先生に申し訳ない……。でもあのコートどうやって脱がせたんだろう……。
シティーハンター感想・闇からの狙撃者
シティーハンター 原作版の感想です。やや辛口のところもあるかも……。
エピソード3・闇からの狙撃者!
人身売買組織を捜査中に人質の女性を救出した獠だったが、それは相棒・槇村の妹で!?(シティーハンタージャンプより引用)
この話は最終巻を読んでから読むとだいぶん印象が変わります。
この話で獠は香を騙して囮にしているんですけど、これ……原作終盤の獠は、罪悪感にとらわれたりしなかったんでしょうか。
表の世界に帰さないといけないとか言ってますけど、それだけじゃなくて昔騙して悪いことしたなぁーとか考えなかったのかなぁ……。
あとで謝ったりとかはしなかったのかなー。
香は「よく見ると美人、服によっては男と間違える」という設定になってますけど、宝塚の男役くらいしか想像つきません。
冒頭の槇村の号泣と、「シティーハンター…冴羽獠ーか」「だれだきさま」っていうのがいいですね。
っていうか、あんた冴羽獠でシティーハンター じゃん、って指摘しただけで態度が変わるくらい自分の正体知られたくないみたいなことが一瞬で分かるこのやり取りは秀逸だと思います。コマ数3コマしか使ってないんだよ。